教えてとりんさま！ 「ホルホル系」

「とりんさまはホルホル系って知ってます？　ネットでバズってたんですけど自分にはよく分からなくて」

「君はまだ未成年だから知らなくても仕方ないさ。ホルホル系というのは競走馬のサイアーラインの事だよ」

「ああ、なるほど！　そういう意味だったんですね」

「ホルホル系は現代の日本競馬において最も重要な概念と言ってもいい。その名の通りホルホルという競走馬を祖にしたラインだけど、去年生まれた幼駒の実に8割がこの馬の血を引いているんだ。ちなみにこの血統を遡ると辿り着くのが名種牡馬ミスタープロスペクターの全弟にあたるサングインだ」

「ミスプロの名前ならゲームで聞いた事があります！　その弟の子孫だったんですか」

「サングインは未勝利だったけど代替種牡馬として80年代に九州にある牧場が購入。正直大物は出なかったけどコンスタントにOP馬を輩出、シンウルフと並んで九州の馬産を支えたんだ」

「へぇ～すごいですね！」

「でも高齢になるにつれて受胎率が低下していってね。代わりに種牡馬入りしたのが産駒のシングンサイオン。母父アサティスでダートに強い仔をよく出した。で、サイオンの晩年の仔がホルホル。九州産馬としては初めて中央G1勝利を上げたんだ。3歳時にマイルチャンピオンシップを制して翌年にはスプリンターズステークスを連覇。5歳時に怪我で引退して種牡馬入りしたんだけど、初年度産駒から重賞馬を2頭出してね。更に2年目産駒からはケンタッキーダービー2着、プリークネスステークス3着と善戦したヘヴンシンガーが出てくる。シンガーが翌年BCターフを制した事で種付け依頼も増えて最終的には日本のリーディングサイアーランキングで3位になったんだ。母父タイキシャトルだからサンデーフリーで種付け相手は融通が効くしキングカメハメハやロードカナロアの血統相手だといい感じのクロスがあるのが大きいかな」

「そんなすごい馬がいたんですね！　僕、勉強不足で知りませんでした」

「まあ、競馬ファンにはともかく一般にはあまり有名ではないからね。でも面白い逸話もたくさんあるんだ。たとえば現役時代のホルホルは気性難で知られていてね。放牧中に他の馬が近づくと追い払おうとするし柵を破壊してしまう。でもレースではいつも落ち着いていて自分のペースを崩さないから騎手や調教師からの信頼は厚かったらしいよ。あと、調教では気合が乗るまで全然走らないくせに突然猛然とダッシュし始めるとかね」

「なんか、僕の知り合いに似てるような気がします……」

「他にもレース前に厩務員を蹴り飛ばしたとか、GⅠレースでトップだったのに急に進路変更して他馬の邪魔をして降着とか、いろいろ伝説があるんだ」

「迷惑な馬ですね……」

「でもね、とっても優しい性格の馬でもあったんだよ。引退式で馬主が泣いていたら顔を舐めたとか。牧場で飼ってた犬と仲良しで「ワン」と鳴いたとか、予後不良寸前の怪我から助けてくれた獣医さんに懐いてたとか、自身は黒毛だけど生まれる仔は母の毛色を引き継ぐ事が多いとか、とにかく話題に事欠かない馬だったよ」

「なんだかとりんさまみたいですね」

「…………うん、そうだね。そうかも」

「なんだかとても興味を引かれたんですけど、今現役の産駒で有名なのは何ですか？」

「今ならタツミホマレかな。去年のサマースプリントの優勝馬で明日の高松宮記念にも出走する。鞍上は武士沢騎手でGI初制覇を狙うよ。単勝オッズは1.4倍と断然の人気だし、前評判通りの走りが出来れば掲示板は固いと思う」

「とりんさまも賭けるんですか？」

「ああ、ひとまず10万円くらい」

「え、そんなに！？」

「うん。タツミホマレには新馬戦の時から注目していてね。あの時は4番人気ながら3コーナー手前あたりからの捲り気味の進出に驚いたなぁ。直線で一旦先頭に立ったものの外から追い込んできたシルクトップガンに競り負けてしまったのが惜しいけどそれでも上がり最速タイムを記録していたんだ。それからはずっと彼を応援している。今回は相手がかなり強いけど是非頑張ってほしい」

「すごく深い思い入れがあるんですね」

「その通りだよ。彼のような素質のある馬が埋もれているのを見ると、なんとかしてあげたくなるんだ」

「とりんさまがこれだけ応援してるんだからきっといい結果が出ますよ！」

「……うん。彼は必ず勝つ。そう信じてる」

「はい！　僕もそう思います！」

「さて、そろそろお風呂に入ろうか」

「じゃあ背中を流しますね」

「ありがとう」