教えてとりんさま！ 「蛙化現象」

「とりんさま、「蛙化現象」ってどういう意味か知ってます？」

「蛙化現象か……100万人に1人の割合で起こる奇病だよ。体が徐々にカエル化するんだ。ヨーロッパでは「レートーシンドローム」、エジプトでは「ヘケトの恩寵」とも呼ばれているね」

「怖いですね……どうしてそんな症状が出るんですかね……」

「詳しい原因は不明だけど一説には、蛙の呪いとも言われてる。昔、ある蛙が人間の言葉を真似て喋ったら、人間がそれを気味悪がり殺したそうだ。それで怒った神様は人間を罰し、その蛙と同じ姿に変えてしまったらしい。それ以来、蛙を害したものは蛙にされるという伝承だ」

「そんな話が……」

「あくまで仮説だけどね。蛙がいない地域で発症した例もあるし」

「じゃあ、もし僕がそうなったらどうなるんでしょうか……。この先ずっと蛙の姿のままなんですか？」

「いや、一年もすれば自然と治るよ。ただ、それまでは辛いだろうけどね」

「そうですか……。よかったです！」

「まぁ、私としては君にはぜひ蛙になって欲しいけどね！　だって可愛いじゃん？　それに今から楽しみなんだよ。蛙化した人は一体どんな声になるのかってさ！」

「うわー……」

「ごめんごめん冗談だよ。でも蛙化現象経験者の話はなかなか面白いんだ。たとえば中世ヨーロッパの詩人ヨハンネス・ベアンスは蛙化から復帰してからしばらくすると、まるで少年のような声で詩を歌うようになったと言われている。それから、ドイツの劇作家ヘクター・フォン・シュライバーは蛙化後に傑作「鐘の声」を書き上げたことで有名だ。古代ギリシャの哲学者クロセウスなんかは蛙化によって人格が変わったとも言われている。彼は自分こそが世界で一番偉大だと豪語していたんだけど、蛙化してからは謙虚になり、学問に打ち込んだという。彼の著書「夢幻論」の冒頭には蛙時代について「我々はもはや我々ではない。我々だったものは我々ではなく、我々の存在のあらゆる部分が消え失せてしまったのだ」と書かれている」

「聞いているだけでワクワクしますね」

「もちろん蛙化現象は良い面ばかりじゃない。蛙化が進むにつれて、人間として大切なものが欠落していくとも言われている」

「どういうことですか？」

「例えば蛙化による記憶障害のせいで人間関係が上手くいかなくなったとか、感情表現ができなくなってしまったとか、酷い時には人間であることを忘れてしまうこともあるらしい」

「えっ……それってヤバくないですか！？」

「ああ。そこまで酷くなくてもとあるカップルの片方は、蛙化してからのセックスで興奮できなくなってしまい、別れることになったという話もあるくらいだからね」

「……」

「関係者の話では以前は相思相愛だったというからやるせないね。愛し合っていた二人を引き裂いたんだから本当に恐ろしい病気だよね……。ちなみにこの話には続きがあってね、別れた後も彼らはお互いに恋焦がれていて、ある夜ついに再会を果たしたんだ。そして二人はそのまま結ばれようとしたけど、そこで悲劇が起こった。二人がキスした瞬間、蛙化が再発して口から大量の水が飛び出したんだ！　その結果、両者は窒息死を遂げてしまった。二人の愛の証であるはずの口づけによって引き起こされた溺死というのは皮肉なものだよ……」

「怖いですね……」

「まあ、こんな感じで蛙化現象が起きた人たちは、人生を大きく狂わせることになるケースが多いね。ある人は芸術家を志して絵を描き始めた途端に指が全てカエルの手になってしまい断念したり、またある人は胎内だけ蛙化した結果産卵してしまい発狂したとか、いずれにしても蛙化現象とは恐ろしいものだね……」

「僕はそんな風にならないように気をつけます」

「そうだね。あともう一つだけ注意しておくことがある」

「なんですか？」

「君はまだ若いんだから恋愛経験も少ないだろう。そういう時に女性と親密になることがあっても決して性的な関係を持たないことだ。たとえ相手が蛙化しても、絶対に手を出さないほうがいい。蛙になった相手を抱くなんて正気の沙汰とは思えないよ……」

「分かりました！」

「よし、じゃあもう今日は帰りなさい。明日、学校に行ったら皆にもこのことを伝えておくといい」

「はい！　ありがとうございました！！」